私たちが法要やお参りの際にお線香・お香を焚くのは、実は古くからの深い教えに基づいています。
仏教の考え方では、人が亡くなってから次の生を受けるまでの期間(中陰、四十九日間)、故人は「香り」を食べ物として過ごすとされています。これを**「食香(じきこう)」**と呼びます。
インドの高僧・世親(せしん、サンスクリット名ヴァスバンドゥ)が著した**「倶舎論(くしゃろん)」**という経典に、この考え方の由来が記されています。生前の行いによって、あの世で食べられる香りの質が変わるという趣旨の記述があり、良い香りを届けることが、大切な供養の一つとされてきました。
私たちが法要やお参りの際にお線香・お香を焚くのは、単なる儀式的な習慣ではなく、この「食香」の考え方に基づいた、故人への“お食事”としての意味が込められているのです。
香りを見分けた、鑑真和上
日本に本格的な香の文化を伝えたのは、律宗の開祖である鑑真和上だと言われています。鑑真和上は、幾度もの渡航の失敗の末に失明してしまいましたが、それでもなお、香りだけで薬の質を正確に見分けることができたと伝えられています。また、複数の香料を練り合わせてじっくりと焚く「煉香(ねりこう)」という製法も、鑑真和上によって日本にもたらされたとされています。目が見えなくなってもなお、香りを通じて人々の役に立ち続けたという逸話は、お香を焚くという行為の奥深さを感じさせてくれます。

